ボートトレーラー入門

舵社「ボート倶楽部」 2000年7月号 連載1回目 (2000.3.14)

著者 塩入 徹(しおいり とおる)


            

写真提供・取材協力 ショアランダーShoreLand'r (有)不二ロイヤルテクノ

 今回からボートトレーラーについて数回に分けてお話したいと思います。
大まかに内容を書き出すと1.トレーラーの概要 2.トレーラーに関する法律 3.トレーラーの種類と各メーカーの特徴 4.トレーラーの自作に挑戦 5.トレーラーのナンバー取得申請書類 6.トレーラーのナンバー取得の実際 7.トレーラーのメンテナンス 8.トレーラーのオプションパーツと改造 という内容で書いていきたいと思っています。
 それでは最初のトレーラーの概要からスタートします。

トレーラーとは

 簡単に言うと乗用車などに牽引される車のことで当然ながらエンジンは無く、基本的には荷物を載せる為の車両の事です。牽引する自動車の事を牽引車、またはトラクタといい、牽引される側の車両を被牽引車またはトレーラーと呼んでいます。またトレーラーはボートトレーラーの他にキャンピングトレーラー(キッチンやベッドが付いていたりします)やフルトレーラー(単なる荷台になっていて貨物運搬用です)に分類され、法律的には軽、小型、普通に分かれそれぞれナンバープレートはもちろん車税なども違ってきます。
トレーラーは何かちょっと話そうと思ってもすぐ法律の問題となり、難しいという印象を持たれやすいのですが、とにかくトレーラーに興味を持つ事が入門の第一歩というところでしょうか。

トレーラーのメリットとデメリット

 みなさんはトレーラーというとどんな印象をお持ちでしょうか?きっとミニボートをカートップしている方にはボートの他にトレーラーも買うのはお金がかかる?とかトレーラーの保管場所(駐車場)が無いとか、運転が大変そうとか思われているのではないでしょうか?また、マリーナに係留している人には、いちいちボートを陸送するなんて面倒で上げ下ろしが大変そうとか、大きなボートはトレーラーで牽引は無理とか思われているのではないでしょうか?
 私はそのどれをも否定しません。確かにそのとおりですがトレーラーにはそれを補って余りある魅力があるのです。


カートップと比較してみると


 カートップをしている方々、ボートを屋根に積むのが大変だと思った事はありませんか?船外機の取り外しと運搬が重いと思った事は?魚探やロッドホルダーだって付けたり取ったりするのが面倒だと思いませんか?家に帰ってからボートやエンジンの洗浄が大変ではありませんか?その全てをボートトレーラーは解決してくれるのです。ボートトレーラーは全て艤装したまま、海まで走っていってザブンと降ろすだけです。特に一人での釣行の多い方には絶対にお薦めです。トレーラーの揚げ降ろしについて多少の慣れは必要ですが、一人でウインチを巻いて簡単に揚げることが出来ます。特に腰を痛めた方や年配の方、また背の低い女性でも何の問題も無く海に出て行くことが出来るのです。
 また帰ってきてから自宅で車の屋根からボートを降ろす必要も無く、トレーラーに乗せたままボートの水洗いをして、船外機も基本的にはボートに取り付けたままで塩抜きの水洗いが出来ます。ですから船外機を立てて保管する為のスタンド等も特別に用意する必要は有りません。
 私の個人的な見解ですが、これからはもっとミニボートのトレーラブルが増えていくのではないかと予想しています。

マリーナ係留と比較してみると

 またマリーナ保管と比較してみたらどうなるでしょうか?通常マリーナ保管をされている方々は20フィートを越える船が多いと思いますが、確かに次号で話すつもりの法律と照合すると20フィートを超えたボートを牽引するにはいろいろな制約があり、簡単な事では有りません。しかしながら、ボートを手元に置いておきたいと思った事はあると思いますがどうでしょうか?自宅の庭やガレージ、近くの駐車場に置いておいて、いつも眺めていたいと思った事はありませんか?艤装だって思い立ったときにすぐ取り掛かることが出来ますよ。
 保管費用はどうでしょう?マリーナの保管料は高過ぎると思ったことはありませんか?きっと駐車場を借りてトレーラーを購入しても十分にお釣りが来ると思いますがどうでしょうか?遠くのマリーナに保管するよりかはもっと気軽に釣行できるので、船に乗る回数も自然に増えるはずです。
そしてなんと言っても、どこでも好きな場所に牽引していってボートに乗れるのです。海だけでは有りません。今日は湖でブラックバス狙いとか、今日は太平洋で明日は日本海などという釣りも出来るのです。また波が高くて普通は出航出来そうも無い場合でも半島の裏側にトレーラーで移動すると、風が無くベタなぎなどということもあります。大きな問題ではないかもしれませんが、マリーナの高いガソリンではなく、普通のガソリンスタンドで給油も出来ますし、陸置きでさらに手元にあればメンテナンスもしやすく少なくともボートにとっては良い環境で保管できると思います。

 そうです。お気づきになりましたか?ボートトレーラーはカートップの良いところとマリーナ係留の良いところをあわせ持つ、これからの新しいボーティングスタイルだと断言する事が出来ます。かなり以前からトレーラーを使用していた先駆者的な方もいらっしゃるのでしょうが、今まで無法地帯のように何の法律的な整備も取り締まりも受けていなかったボートトレーラーという分野が、ここに来て良い意味でも悪い意味でも注目を集めて、見直しがかけられてきております。法律の整備やトレーラブルボーティングのインフラ整備など、これから急速に進んでいくと思われますので期待したところです。

※トレーラブルの一番のデメリットはボート降ろし場所です。この記事を書いた時は北海道に住んでいましたのであまり気にしませんでしたが、首都圏では深刻な問題となっていて、特にここ最近は地方の漁港のスロープまで閉鎖されるケースが増えています。砂浜から気軽に出せるカートップに比べボートが大きく、安全で海上の機動力も抜群である反面、降ろし場所の閉鎖は現在トレーラブルボーティングにおいて一番の問題となっています。(2007.10.28追記)


社会的なメリットは


 最後のメリットとして不法係留の撲滅がトレーラブルによって可能になると私は考えています。河川に勝手に係留しているボートオーナーがかなりの数で存在すると聞いております。理由のひとつは先ほども述べたマリーナの係留費用が高価であること。そしてお金を出したとしても物理的に係留可能艇数が不足していることも原因と聞いております。不法係留されているボートを全て、係留するためのマリーナの開発を考えるよりも、陸上にトレーラーで保管するほうが早く不法係留を一掃出来、しかもトータルコストもかからないはずです。その分、各港にトレーラーの為のスロープ開放や設置などを設けたほうが将来的にもメリットがあるはずです。

 もちろんメリットばかりではなく冒頭に書いたようなデメリット以外にボートの大きさが制限されることや航行区域が広がっても航行範囲が5海里から3海里に制限される(ミニボートはもともと3海里が多いのですが)などのマイナス部分も有るのでもう一度自分のボーティングスタイルを見直してみられてはどうでしょうか?

※平成16年11月1日に新しい航行区域が施行されました。2級小型船舶操縦士の免許で操船できる水域(海岸から5海里以内=「沿岸区域」)を航行区域とする新たな航行区域「沿岸小型船舶」が新設されました。海岸から5海里の範囲内であれば航行できる区域を限定されることなく航行することが可能です。(2007.10.28追記)

トレーラブルの環境

 簡単にトレーラブルの環境と書きましたが、さまざまな角度からこの環境を考える必要が有ります。普通はトレーラーを下ろす場所などを第一に考えると思いますが、ここではもっと広い意味での環境を考えてみたいと思います。
 
トレーラブルを語る上で避けて通れないエポックメイキングな出来事が二つあります。ひとつは日本のマリンシーンを引っ張ってきているヤマハという大手メーカーが数年前にSRV17TRという形でボートとトレーラーのセット販売を開始した事です。もちろんボート単体での販売もしておりますが、日本の法規上で一般的な普通免許で牽引できる最大クラスとしてスペックが設定され、ショアランダーボートトレーラーとセットで販売されるというものです。このことは非常に大きな意味を持っており、ヤマハがトレーラブルボートを正式に自社ブランドとして発売するという事は今までユーザーが手探り状態でトレーラブルしていたものを広く世間に認知させるという大きな役割を果たしたといっても過言ではないと思います。これこそが広い意味での環境整備であって、メーカーがトレーラーの法規的な手続きまで代行して保障するという事は過去には例の無かった事だと思います。

そしてもうひとつはあまり目立たない事ですが、我々ボート好きには見落とししがちな事で、牽引車側に取り付けてトレーラーを引っ張る為の装置であるヒッチメンバーをホンダがオデッセイという車で初めて正式にメーカー純正オプション扱いとした事です。牽引車については規制緩和によってヒッチメンバーの取り付けが指定部品扱いとなり、牽引車の車検時に構造変更などの申請が不要になりました。簡単に言うとスキーキャリアなどと同じような見方になったという事です。ここまでは良いのですが実際には国産全メーカーともに今まではヒッチメンバーを取り付けてトレーラーを牽引する事は正式には認めておらずあくまでもユーザー責任として逃げていたわけです。そこをホンダが正式にヒッチメンバーの取り付けを認めたという事は車のメーカーがフレーム強度やヒッチメンバーの強度を保障するという事になり過去に例がありません。
今後はレジャーの多様化に対応できるように、国産他社メーカーもヒッチメンバーの取り付けまで考えた車作りをして欲しいと思います。

余談ですが私が車を購入するときは必ず後ろ側の下に潜ってフレームの走り方を確認する事にしています。特にマフラーのタイコやエキゾーストパイプの取り回しが邪魔にならないか確認するのですが、どこのメーカーのセールスマンも不思議そうな顔をして見つめています。ベース車両がトラックであれば普通は問題ありません。これはジープ型の四駆や1ボックス車に相当しきちんとハシゴ型のフレームが入っています。注意を必要とするのがベース車両を乗用車とする場合です。一見ジープタイプでもアコードベースのホンダCRVやスターレットベースのトヨタRAV4などは注意が必要です。また当然のことながらモノコックボディーの乗用車はヒッチメンバーが取り付けできない事もあるので、トレーラブルボーティングのためにはどんな車で牽引するのかまで考えておく必要があります。実際にはほとんどの車にヒッチメンバーを取り付けることは可能ですが、実際に牽引走行するときに牽引強度に制限があって重いボートは引っ張れないとか、歩道の段差にヒッチメンバーが当たってしまい、乗り辛いものになったりすることがあります。(私は一時、車高の低いスバルレガシーで牽引していましたが、歩道の段差にはいつも泣かされました。)

もう少し余談を続けますと実はトレーラブルボーティングの盛んな外国(特にアメリカ)では、トレーラーの牽引はどんな車でも当たり前の話で普通のセダン型の乗用車でさえも取扱説明書にはヒーターやラジオの説明と同じようにトレーラーの牽引というのがインデックスにあり「この車は○○ポンドまで牽引が可能です。」と書かれているようです。日本の感覚ならたとえ牽引可能だとしてもこの乗用車は牽引を想定して作られておりませんので保障対象外ですと一言で終わってしまいそうですね。出来ないと保障しないというのではなく、この乗用車はこのくらいまでなら牽引できると言うところがアメリカらしくて素晴らしいじゃありませんか。ちなみに国産のRV車を海外に輸出すると取扱説明書には牽引についてまでかなり詳しく書かれていますが、不思議な事に日本国内の取扱説明書には何も書かれていません。この辺りは国産車メーカーは相手によって仕様の使い分けをするのではなく、もっとユーザーの側に立った考え方で車の販売をするよう襟を正してもらいたいと思います。

話が横道にそれてしまいましたが、このようなヤマハやホンダのような大手メーカーの取り組みこそが環境整備の第一歩でメーカーとユーザーが協力してトレーラブルボーティングの環境を整えていきたいと、またいくべきだと私は考えています。

 


トレーラーの法律


本文中でも少し法律的な話が出てきましたが、トレーラブルボーティングを楽しむには法律は避けて通れない問題ですので、次号で詳しくお話したいと思います。



コラム 「トオルのトレーラブルボーティング日記」

 私はボートトレーラーに興味を持ってから、いろいろな参考書を本屋で捜し歩きましたが、どこにも売っておらず最終的に自分で陸運事務所に行き、いろいろ聞いてかなりの苦労の末になんとか自分が組み立てた輸入ボートトレーラーにナンバーを取得する事が出来ました。きっと同じように困っている人がいるはずだと思いボートトレーラーに関するホームページを開設したところ、全国からトレーラーに関する問い合わせや相談事をメールで頂き、微力ながらボート普及に貢献出来たかなと思い込んでいます。今回、この記事を担当させて頂いたのも、出来ればボートトレーラーを解説したマニュアル的な指南書が欲しいという私自身の欲求が筆をはしらせているようなもので、私は素人のために読み辛いところも有るかと思いますが、暖かく見守ってあげてください。
ホームページは「釣りキチ集合!」というタイトルで開設していますので、みなさん気軽に立ち寄ってください。
http://turikiti.com/ 

※当時の連載記事です。現在の法律と違っている部分がありますのでご注意下さい。
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