ボートトレーラー入門 第二回

舵社「ボート倶楽部」 2000年8月号 連載2回目 (2000.5.29)

著者 塩入 徹(しおいり とおる)


            

写真提供・取材協力 ショアランダーShoreLand'r (有)不二ロイヤルテクノ

トレーラーの基本的な法律は5+1

 第一回のトレーラーの概要に引き続き、今回はトレーラーに関する法律をお話ししたいと思います。ここでお断りしておきたいのですが、法律というのはそれぞれの関係省庁の規則が複雑に絡み合っており、また地域や担当官によっても解釈の違いがあるようで、トレーラーの法律はこれですと簡単にお話し出来ない事を理解していただきたいと思います。連載の後半では実際のナンバー取得、ユーザー車検の話もしたいと思っていますが、これもその地域の管轄陸運局や同じ管轄でも支局によって解釈が違うとか、担当官によって違うという事が実際に発生しています。

法律は使われている言葉がとても難しく、我々一般の人間では近寄りがたいところがあります。基本的にトレーラーにかかわる法律の種類をわかりやすい言葉で書くと「運転免許の法律」「牽引車側の法律(ヒッチメンバー等)」「トレーラー本体の法律(構造等)」「積載したときの法律(ボートを積んだ状態等)」「牽引状態の法律(車+ボートトレーラー等)」そして最後に「ボートの法律」とこんな感じになるでしょうか。

運転免許は普通免許で大丈夫?

 先日、私の知り合いにボートトレーラーの話をしていましたら、第一声が自分の所有している免許で運転できるの?という質問でした。これを読んでいる読者の方々はもう知っている人も多いかもしれませんが、釣りもボートも興味の無い人からはそういう素直な疑問が出てくるだけに、まだまだ牽引という事は世間一般に認知されていないという印象を受けました。
 結論を言いますと、皆さんがお持ちの普通免許で十分牽引が出来ます。もちろん、ある程度、牽引できる大きさが制限されてしまうので、それ以上の大きなボートなどを牽引するときは牽引免許が必要になります。
 「道路交通法」によると、被牽引車両の総重量が750kg以下であれば、普通免許で運転できることになっています。「総重量」というのは、トレーラー本体の自重+ボートの重量+船外機の重量+ガソリン重量+その他全ての装備品となります。ヤマハのSRV17TRのカタログを参考にさせていただくと、トレーラーの重量は230kgとなっています。普通免許で牽引するならボートや船外機+装備品の重量は750kg−230kg=520kgとなりますが、最大積載量は50kg刻みで登録する為に500kgまでに制限されてしまいます。厳密に言うとトレーラーの重量が251kgだとすると、750−251kg=499kgとなりますが、実際の登録では450kgが普通免許で牽引できる実際の最大積載量となってしまうので注意が必要です。
参考までにセット販売されるSRV17の船体重量は345kg、完成重量は453kgとなっており、これに24Lのガソリンタンクを満タンにしてちょうど良い重量という感じでしょうか。これも厳密に言うと釣りの艤装品を山積みにして予備のガソリンタンクをもうひとつ満タンにし、さらに大漁の魚がイケスに海水と一緒に入っていたら普通免許で運転出来なくなってしまいます。
 重いものは牽引車側に積み込めば問題にはなりません。現実的では有りませんが、船外機を取り外せば、ぎりぎりで牽引できるというボートもあるかもしれません。
 また普通免許で運転する為には上記の重量のほかに、牽引状態の長さ(牽引車+トレーラー+ボートの飛び出し)が12m以内で全幅2.5m以内、さらに全高3.8m以内という規定があります。つまり全長の長い車なら、牽引するボートは小さくなり、全長が短い牽引車ならより長いボートを牽引する事が出来るわけです。実際には牽引車の車重も関係しますので、小さくて軽い車は小さなボートしか牽引できません。出来るだけ大きな(長い)ボートを牽引する為には全長が短くて重い、ショートタイプの4WDのような牽引車が最適です。
 上記で説明した重量、全長、全幅、全高を超える場合には、当然ですが牽引免許が必要となります。
 免許のところで補足ですが、故障車をロープ等で牽引する場合は、ほとんど750kgを超えているはずですが、牽引免許が不要なのは皆さんご存知のとおりです。

普通免許で牽引できるトレーラー

 適用  規格
全長 牽引車+トレーラー+ボートの飛び出し=12m以内
全幅 2.5m以内
全高 3.8m以内
重量  トレーラー+ボート+船外機+ガソリン+他装備=750kg以内 

牽引車側の法律は?


 牽引車はトレーラブルをするためにヒッチメンバーという連結装置を取り付けしなくてはいけません。もちろんトレーラー側に制動灯や方向指示器の電力を供給する為の電線カプリングも必要です。
 現在は規制緩和によりヒッチメンバーを取り付けしても、指定部品扱いとなり構造変更の申請が不要になりました。簡単に言うと後で取り付けするスキーキャリアと同じ扱いだと思って頂ければ良いと思います。ただし、ユーザーとして手放しで喜ぶわけにはいきません。これは裏を返すとユーザーの責任で取り付けをするという事で、ヒッチメンバーが原因で事故がおきても、どこも保障もしなければ責任も取らないという事なので注意が必要です。ですからヒッチメンバーの構造や取り付けは信頼できるところにお願いすべきで(もちろん自分で取り付け出来れば言う事がありませんが)第一回目の記事に掲載したように自動車メーカーにもっと前向きに取り組んでもらいたいところです。
 今ではヒッチメンバーが指定部品扱いとなったかわりに、牽引車とトレーラーがセットで登録されるようになってしまいました。これはどういうことかというと、自分の持っているトレーラーを他人のヒッチメンバーが付いた車で勝手に牽引してはいけないということです。トレーラーの車検証には、このトレーラーを牽引できる車の型式が記入されており、これ以外で牽引すると違法となってしまいます。これは次回もう少し詳しく説明しようと思っていますが、このトレーラーを牽引する車両が適正かどうかという事を「連結検討書」というもので計算して証明しなくてはいけません。簡単に言うとボート+トレーラーの重量がかなり重い場合、そのトレーラーを軽い車で牽引したときにブレーキが効かず、牽引車が後ろのトレーラーに押されて止まれないという現象が発生します。その可能性を計算式で求めて、必要に応じて慣性ブレーキというトレーラーが牽引車を押す力でブレーキをかけるという装置を取り付けしなくてはいけません。つまり現在は牽引車とトレーラーは一対一で対応しているという感じになります。(厳密にはエンジンやミッション形式まで同じであれば、他人の車両でもOKです。)
 さて、今では指定部品扱いで特にヒッチメンバーも気にかけなくて良くなりましたが、いまだに以前の通達が慣習として残っている部分が有るので参考までに昔の通達を用語説明も含めて抜粋しておきます。あくまでも参考として読んで下さい。

※以前はトレーラーの車検証に登録されている限定された牽引車(例えばトヨタのランクルプラドのAT車等型式で限定)でしか牽引できませんでしたが、現在は法律が改正されて牽引車側の車検証に牽引可能なトレーラーの重量が記載されるようになりました。よって牽引車と特定のトレーラーが一対一で登録しなくてもよくなりました。連結検討書でその牽引車が牽引可能な最大重量を計算して記入し、陸運事務所等に申請すると、牽引車の車検証にはその重量が記載され、その範囲内であればどんなトレーラーでも牽引できます。これについては「ボートトレーラー入門」ではなくその後に連載を開始した「トレーラブルボーティング再考」に詳しく書いていますのでホームページ掲載までもう少々お待ち下さい。ただしトレーラーの最大重量をきちんと連結検討していない昔の登録の状態では、許可されていない他人のトレーラー等を牽引すると違反になると思われますので注意してください。2007.11.2追記

用語説明

「ボール・カプリング」
トレーラーと牽引車を連結する目的でトレーラー側にソケット(ボール・カプラ)牽引車側にボール・スタッド(ヒッチ・ボール)をそれぞれ取り付け、連結分離を可能とした装置。
「ヒッチメンバー」
牽引車の車台または車体に取り付けてヒッチ・ボールを支持し、トレーラーを牽引する為の構造部材。
「電線カプリング」
牽引車とトレーラーの電気回路をつなぎ牽引車からトレーラーの各回路を制御し、又は電源を供給する為の接続装置。


(以下は昭和46.5.10 自車第294号 通達からの抜粋です)

安定性
ヒッチ・ボールにかかる垂直静荷重は0kg以上75kg以下とする事。

連結装置
1 連結装置はボール・カプリングであること。
2 ボール・カプリングのヒッチ・ボールの形状及び寸法は「ヒッチ・ボールの形状寸法規格」によること。
3 ヒッチメンバーの構造は、「ヒッチメンバー構造規格」によること。
4 トレーラーのボール・カプラは走行中の分離を防ぐ為に二重ロック構造であること。

安全チェンまたは安全ワイヤ
1 トレーラーは安全チェン又は、安全ワイヤを備える事。
2 安全チェン又は安全ワイヤの強さは、トレーラーの車両総重量の2倍の荷重に耐える事。

ヒッチ・ボールの形状規格

この規格は、ISOに準拠して制定したが、ボール径の公差は呼称寸法が2インチ(50.8mm)のものも公差内に入るように考慮して定めた。

ヒッチメンバーの級別
 ヒッチメンバー級別   牽引可能のトレーラー車両総重量 
A級 400kg以下
B級 550kg以下
C級 750kg以下

※ヒッチメンバーの製造者を明確にするため、ヒッチメンバーに製造者名を刻印する事とした。なお製造社名のかわりに社章または略号を刻印してもよい。と以上、昭和46.5.10 自車第294号 通達からの抜粋で、何度も言わせていただきますが現行の法律とは一致しておりません。ただし、かなりの部分が現行法規のベースとなっているので、参考にして下さい。
灯火装置(T種7極タイプ)


端子番号(識別番号)

 端子番号(識別番号)   灯火の種類   配線の色 
1 (WHT) アース(接地)
2 (BLK) 駐車灯(室内灯)
3 (YEL) 左側方向指示器、左側非常点滅灯
4 (RED) 制動灯
5 (GRN) 右側方向指示器、右側非常点滅灯
6 (BRN)   尾灯、番号灯、車幅灯、外側表示灯 
7 (BLU) 後退灯

電線カプリング構造規格

電線カプリングの種別は、次表のとおり7極用と12極用の2種類とする。

  種別  極数
T種 7極
U種   12極 

トレーラー本体の法律(ナンバー登録が必要です)

 トレーラー本体については大きさによって、ナンバーの登録区分が違います。

 

軽自動車登録
(黄色ナンバー)

小型自動車登録
(白ナンバー)

普通自動車登録
(白ナンバー)

全長 3.4m以下 4.7m以下 左記を超えるもの
全幅 1.48m以下 1.7m以下 左記を超えるもの
全高 2.00m以下 2.00m以下 左記を超えるもの
積載量 350kg  トレーラーの最大積載  トレーラーの最大積載
車検期間 2年毎 1年毎 1年毎
管轄 軽自動車協会 地方ごとの陸運支局 地方ごとの陸運支局
新規登録料 1,400円 2,100円 2,200円
自賠責保険(13ヶ月) 5,850円 5,850円 5,850円
自動車税 地方税で不均衡 地方税で不均衡 地方税で不均衡
重量税  8,800円(2年) 1tあたり 6,300円 1tあたり 6,300円
仮ナンバー交付料 730円 730円 730円
ナンバー交付料 4,000円 4,000円 4,000円

※上記の表は2000年当時です。現在の金額等は関係機関に確認をお願いします。2007.11.2追記


別表にあるように当然ですがトレーラーは車両とみなされるので、ナンバーがついていなくてはいけません。いまだにナンバープレートの付いていないトレーラーを見ることがありますが、無車検・無保険の為、一発で免停となる可能性があります。どんなトレーラーでも、ナンバーを付ける事は可能です。もし、まだナンバー登録をしていない方は、陸運支局に相談される事をお薦めします。

今回はページ数の関係で法律関係の半分ほどしかお話できませんでしたが、次回は残りの「積載したときの法律(ボートを積んだ状態等)」「牽引状態の法律(車+ボートトレーラー等)」そして最後に「ボートの法律」をお話したいと思います。その後には連結検討書の計算の仕方や実際のナンバー登録についてもお話していきたいと思っています。どうぞご期待ください。



コラム 「トオルのトレーラブルボーティング日記」 

 本文中の「トレーラー本体の法律」のところで、自動車税のところが地方税で不均衡と書きましたが、実はかなり不公平な状態となっています。トレーラーは特殊用途車となりますが、熊本県が全国で一番高くなっています。これは地方税ですから各都道府県が好き勝手に?税額を決める事が出来、このボートトレーラーにだけ限って話をしますと愛知県の6,000円を最低に熊本県の3万6,000円と6倍もの開きがあり、理解に苦しみます。
 実はこのことをホームページで訴えつづけてきた高木茂さんという方がおり、新聞などでも不公平である事を記事にされて、やっと熊本県税条例が改正され平成12年度から税額が3分の1以下となりました。
 高木茂さんの「ボート&トレーラー」というホームページはトレーラーに興味のある方ならきっと参考になるはずですので一度、訪問されることをお薦めします。
URLは
http://trailerble.com/index.htmlです。※当時からURLが変更となりました。2007.11.2追記


※当時の連載記事です。現在の法律と違っている部分がありますのでご注意下さい。
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