ボートトレーラー入門 第3回

舵社「ボート倶楽部」 2000年9月号 連載3回目 (2000.7.9)

著者 塩入 徹(しおいり とおる)


            

写真提供・取材協力 ショアランダーShoreLand'r (有)不二ロイヤルテクノ


 第二回のトレーラーに関する法律(運転免許、牽引車、トレーラー本体の一部)に引き続き、今回はトレーラー本体の構造についての法律の続きからお話したいと思います。

トレーラー本体の法律

 前回の記事でトレーラーにはナンバープレートが必要という話を書きましたが、これは立派な?一台の車として認められているわけで、当然車検も有れば、自賠責保険の加入も必要で、おまけに重量税や自動車税まで払わなくてはいけません。それではナンバーを取得しないで走り回っている人たちが、そのお金を払いたくないからナンバーを付けていないのでしょうか?私はそうは思っていません。私も最初は何も知らないで車検の取れないトレーラーを購入してしまいました。これは組み立てキットのため、だれでも安価で購入できますが、当然バラバラの部品で運ばれてくる為に車という認識はありませんでした。つまり、販売している側にも、そのような認識が無く、ただ売れればいいという商売優先の気持ちが有ったのではないでしょうか?その後一ヶ月も経たずに、ナンバーを取得できるトレーラーを購入したのは言うまでも有りません。一ヶ月で2台も購入した私のような被害者?を出さない為にも、この記事を連載しようと思ったのです。私が組み立てて、ナンバーを取得した話はいずれここで紹介するつもりですが、とにかくトレーラーにはナンバーを付けなくてはいけないということを認識してください。そして、販売店や輸入代理店もそのことを広くユーザーに認知してもらうように努力すべきです。最近では警察からトレーラーの販売店に通達が出ており、ナンバー無しでの販売はしないように指導されているとのことです。しかし、それを逆手にとって法外な値段でナンバー取得までのセット販売をしている悪徳な販売店もあるので、注意が必要です。

車検を取れるトレーラーと取れないトレーラー

 それではナンバーを取得できるトレーラーと取得できないトレーラーの違いはなんでしょうか?逆にいうと車検を取るためには何が必要なのでしょうか?ナンバー付のトレーラーもそうでないトレーラーも見た目はそれほど変わらないはずです。牽引車と接続するためのカプラーが有って、電気を供給する配線類があって、当然ボートを載せる為のフレームやタイヤはついていて当たり前です。しかしよく見ると大きな違いが2点有ります。それは灯火類と駐車ブレーキです。

トレーラーの灯火類

 何度も言いますがトレーラーは車です。当然、左右に曲がるときに合図を出す方向指示灯(ウインカー)やブレーキを踏むと点灯する制動灯(ストップランプ)は、ナンバーの取得できない輸入トレーラーでも付いています。しかし、その他にも尾灯、番号灯、車幅灯、そして後退するときの後退灯(バックランプ)が付いていないと車検は通りません。最後にこれは電気的な配線は必要ありませんが、側方の反射板が左右に2箇所とトレーラーである事を唯一証明する一辺15cm以上の赤い三角反射板が後ろ側の左右に二個必要となります。大きなトラックを追い越す時に右に出てからトラックではなく、もっと全長の長いトレーラーだったという経験はありませんか?後ろから見ると11トントラックも20トントレーラーもほとんど同じように見えますが、追越をはじめるとトレーラーは全長も意外に長く、慌てる事があります。実は後部を良く見るとトレーラーには赤色の三角反射板が左右に2箇所必ず取り付けられているので判別することができるのです。灯火類や反射板については色や面積、明るさまで規定があるので別表を参照してください。

駐車ブレーキ

 トレーラーのナンバーを取得する中で、もっとも難関といわれるのが、この駐車ブレーキです。これは、牽引車と切り離したときにトレーラーが勝手に動かないようにサイドブレーキの要領でトレーラーの位置を保持するものです。海外ではこのような発想がないために、どの輸入トレーラーも日本で加工されたり、日本の販売店が日本向けに駐車ブレーキキットを取り付けたりしているようです。単なる車止めでもいいような気がしますがどうでしょうか?
 駐車ブレーキはドラム式と最近ちょっと増えてきたロッド式が主流です。ドラム式というのはご存知ドラムブレーキの事で、回転しているブレーキドラムをブレーキシューではさみ込んで止めるというものです。これは利き味がよく、しっかり効くのですが、構造上完全な密閉はコストも含めて難しいようで、トレーラーを水につけているうちにブレーキシューがブレーキドラムに固着してブレーキが効いたままになったり、逆に駐車レバーを力いっぱい引いていても、ブレーキが効かずにトレーラーが動いたりして一年ももたないものが多いようです。ある大手メーカーのトレーラーもドラム式のため、海で使用しているとすぐ固着したという報告も聞いています。それに対してロッド式というのは、簡単に言うとホイールにロッド(鉄の棒)を差し込んで止めるというものです。これはホイールにロッドが入る為の穴があいているか、又は溝が切ってあるというもので、当然海水で固着するような事はありません。構造的にも単純で、バネの付いたロッドをブレーキレバーで差し込んだり引っ張ったりするようになっています。これこそまさにボートトレーラーには最適の駐車ブレーキだと思います。ただし、欠点もありドラムブレーキはその位置でレバーを引くと、その場ですぐ止まりますが、ロッド式のものはレバーを引いてもロッドが穴に入るまで遊びがあるために、固定されるまで少しぐらぐらして位置が決まりません。また、高級なものではディスクブレーキもオプションで販売されており、なかには手動(ワイヤー式)ではなく、油圧式というすごいものまで登場しています。

ローコストはチェーン式

 これは最近になってようやく認可されたのですが、チェーン式というのが一番安くあがります。これは何かというとチェーンでホイールをロックするというもので、簡単に言うとバイク等の盗難防止用に取り付けるようなチェーンをホイールに巻きつけてロックするというお手軽なものです。当然、海水による固着はありません。ただし、駐車レバーがあるわけではないので、実際に使うときには左右のホイールをそれぞれチェーンで巻きつけてやらねばならず、少し面倒ではありますがこれで車検が取れるなら安いものです。以前に北海道のユーザーが構造計算書類を添付して突破口を開いたようで、北海道の陸運局関係しか認められていなかったようですが、最近になってようやく全国で認められ、一部の国産トレーラーメーカーもコストダウンの為に取り入れ始めました。これはチェーンまたはワイヤーの径が6m/mならOKで、片側がトレーラーのフレームに固定されている事が条件となります。ドラム式やロッド式はどちらも自作したりキットを購入すると数万円から数十万円もかかってしまいますが、これなら数千円の費用で済むはずです。しかしながら、このチェーンやワイヤーについても強度計算書が必要となり、材質や引張り強さ、径、断面積から計算し安全率2以上である事を証明しなくてはいけません。この辺りがまだ敷居の高いところですが、それでも市販トレーラーでさえ取り入れ始めたようなコストの安さは魅力です。ますますトレーラーが安く買えるようになって、普及してくれるといいと思います。もし駐車ブレーキを自作してナンバーを取得したいと思っている方は、気軽に自分の住んでいる管轄の陸運事務所に相談される事をお薦めします。少なくとも私の住む札幌の陸運事務所は本当に我々ユーザーの身になって懇切丁寧に教えてくれますし、親身になって相談にのってくれます。これも、ただ頭からナンバーが付いていないのはダメという排除の方針ではなく、何とか合法的にナンバーを取得してトレーラーに乗ってもらいたいという札幌陸運の前向きな姿勢に感動すら覚えるといっては言いすぎでしょうか?本州の方々から管轄の陸運では、応対が悪く全然相談にのってもらえないという話まで私のホームページに書き込まれたり、私宛にメールで相談が来たりしています。このような一部の道外陸運の対応は本当に残念でなりません。

車庫証明も必要

 トレーラー本体の法律の最後にトレーラーは車ですから当然車庫証明も必要となります。以前の車庫法ではトレーラーも普通の自動車と同様に自宅から2km以内に保管場所を確保しなくてはいけませんでしたが、特例としてキャンピングカー及びボートトレーラーの保管場所として公安委員会から認可を受けた事業者に管理委託、整備委託をした場合にそこが使用の本拠の位置とみなされるようになりました。(平成10年9月3日検察庁から各県警に通達)
軽トレーラーの場合は管轄の市町村によって使用者が警察署に届出し、車庫証明のステッカーを受け取る仕組みとなっており軽自動車と同様です。

積載時の法律について

 積載物はトレーラーの幅を超えてはいけません。つまりトレーラーの幅を超えたボートを積む事は出来ないのです。特に軽規格のトレーラーなどはトレーラー幅が148cmしかないために、幅広のアルミ製バスボートや、空気を入れた状態のインフレータブルの運搬はほとんど違法となってしまいます。
 現在の軽規格は長さ3.4m、幅1.48mとなっていますが、以前の規格では長さが3.3m、幅が1.4mとなっており、いまだに古い規格の軽ナンバートレーラーが販売されているので購入時には注意が必要です。
 また、積載物(ボート)の長さのはみだしに付いてはトレーラー全長の10%までは無条件に認められており、50%までなら警察の許可を取っての運搬が認められています。
 これも軽トレーラーの例で話しますと、3.4mのトレーラーには警察の許可無しで3.74mまでのボートを積載する事が出来ます。実際にこのようなぎりぎりの大きさのボートではヒッチメンバーの真上にボートの先端がきてしまい、今はやりのジープ型4WDなどでは、背面タイヤがボートに当たってしまうので気をつけなくてはいけません。

牽引状態の法律について

 牽引状態、つまり牽引車とトレーラーを連結させた状態については12m以下なら普通免許で運転できる事は前回お話しました。また牽引状態については牽引車+トレーラーを1台の車両とみなすので、牽引車の全長+ヒッチメンバーの長さ(出っ張り)+トレーラーの全長の10%までのはみ出しなら問題ありません。普通免許で運転するには10%のはみ出しまで含めて12m以内であることが条件となります。
 牽引車との関係で大切な事がまだあります。それはボートの幅です。トレーラーは牽引車の幅から左右15cmづつのはみだししか認められていません。つまり5ナンバーの乗用車で牽引するとなると、5ナンバー目一杯の車幅の牽引車としても1.7mとなり、5ナンバーで牽引可能なトレーラーの幅は左右15cmづつ足して2.0mまでがトレーラー車幅の限界です。すなわちトレーラーの車幅を越えるボートは牽引できないので、5ナンバー車で牽引できるボートの幅は最大で2mまでとなります。意外に17フィートクラスでも2m以上の船幅を持ったボートも多いので牽引時は注意が必要です。また、この規定は外国製のトレーラーには適用されていない地方もあるようですから、管轄の陸運事務所などに確認してみると良いと思います。基本はバックミラーで50m後方が確認できれば良い事になっています。

トレーラーボートの法律について

 最後にボートについてですが、4級船舶免許で乗ることの出来るそこそこのボートはほとんどが船検証に母港を定め、その他に避難港を2箇所登録する事が出来ます。通常の限定沿海の航行範囲は、この3つの港から1時間以内に行ける場所に限られ、さらには陸岸から5海里以内と定められています。ところが平成5年に「可搬型小型船舶の航行区域の特例」というのができて、陸上を運べるカートップボートやインフレータブル、そして小型のトレーラブルボートはこの適用を受ける事が出来るようになりました。この特例では母港に関係なく全国どこからでも出航する事が出来ます。特例では「安全に上げ下ろしできる陸岸から3海里(約5.5km)以内の航行範囲」となっています。残念な事に5海里から3海里と沖までの航行範囲を制限されてしまいますが、先ほども書いたように全国どこからでも出航できるのは魅力だと思いませんか?

 前回、今回と法律に関する堅い話が続きましたので次回は各メーカーのトレーラーの紹介をしたいと思います。それぞれに特徴があって選択に困りますが、アイデアにあふれるものも有りますので、どうぞご期待ください。


コラム 「トオルのトレーラブルボーティング日記」 

 実はこの記事を書いている途中でボートを乗り換えることになりました。いままではトーハツのTO−11Rという11フィートのボートにショアランダーの軽トレーラーで牽引していましたが、今回購入したのは四国愛媛にあるマリンモーター製のNEO374シーボーイで私にとって4艇目となります。374という数字、本文で出てきましたよね。実は軽トレーラーで運ぶ事の出来る全長の最大サイズなのです。幅も148cmとなっており、本当に軽ナンバートレーラーの限界を極めた日本で初めてのボートだと思います。その専用トレーラーがまた優れもので、一人での上げ下ろしも簡単に出来ますし、ボートを固定する為にベルトをかけるステー等も最初から用意されているのです。なんだか、マリンモーターNEO374シーボーイの宣伝になってしまいましたが、このメーカーのホームページには、トレーラーについてとても詳しく書かれており、上げ下ろしの状況や法律まで情報が満載です。参考までにURLを書いておきます。一度訪問してみてください。
http://www.ehime-iinet.or.jp/co/marinemotor/ ※現在のURLはhttp://mamo.co.jp/です。

※当時の連載記事です。現在の法律と違っている部分がありますのでご注意下さい。
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